日本官能評価学会 2019 メインテーマ:「言葉に寄らない官能評価」おいて、以下の講演をおこないました。招待講演:「看護のための感性評価ツールデザイン」

感性を探るためには「意識的な心の働き」と「無意識的な心の働き」の両面からアプローチすべきです.無意識的な心の働き(潜在的メンタル・プロセス)は,脳のメカニズムによると,身体を使って獲得した記憶の想起です.従って,身体動作から評価すことは脳の働きを知る一つの手段となるのです.

  • アンケートは,被験者による意識的な評価です.同じ調子の質問がたくさんあると回答意欲が減退することを忘れてはいけません.あれもこれも尋ねてみようと考えず,何が知りたいのかを熟考して問いを設計することが重要です.実験後のアンケートはリアルタイム評価ではありません.どれくらいの時間を空けて実施するのか,事前も必要なのか考えることが必要です.
  • プロトコル分析は,実験中の被験者の言動を録画して分析する方法です.被験者が声を発してくれるかどうかによるところが大きく,それを促すと実験者の誘導が入る危険性があるので注意が必要です.また,発話を積極的にしてくれる人を選ぶことが実は大切なのです.
  • ログ解析は, 操作プロセス,誤操作時間などの数値データをログとして取得して解析することであり,リアルタイムの評価として扱えます.シミュレーションなど被験者に気づかれることなく取得できれば無意識的は評価となり,意識的な評価(アンケートなど)と比較すると面白い結果が得られる場合があります.随時取れるため分析法を最初に考えておく必要があります.
  • 脳波測定は,MRIなどと同じく脳のどこがどう反応したかであって,人の心がどう感じたかまでは,まだ正確には分からないと言うことを忘れてはいけません.脳科学がもっと発展し,機器が開発されれば精度も高くなるはずです.一方で脳が感性のすべてを制御しているという考え方に対して疑問を持ち,自ら調べてみる努力を惜しんではなりません.
  • アイマークカメラによる分析は,人の視線移動,視線停留時間などを測定することで,その人の心のシナリオを読み取ることができますが,それはあくまで憶測であることを忘れてはなりません.その保証を得るために実施後すぐに視線のログを見せながらインタビューできるような環境を作ることも考えるべきです.
  • 行動解析は,上記の分析方法が使えない状況(例えば,入院患児などの感性評価を得たいとき)では特に有効となります.日本行動科学学会,日本笑い学会,日本顔学会などの論文を調べることをお勧めします.
  • SD法は,感性の評価を数値化する代表的方法です.対極にある形容詞の複数の組に対して段階評価させて測定しようとするものが代表的です.忘れてならないのは,5段階評価の場合,分析の都合で数値に置き換えているということです.異なった感性を同じ1〜5の数値に置き換えるところに恣意的要素が少なからず介在しているということです.

これらは,アンケート・多変量解析と言ったような「意識上にある感性を捉える方法」と生体反応のように意識的にコントロールできないデータから「意識下にある感性を捉える方法」に分けて考えることができます.

そこで考えるべきは二つです.一つは感性評価の精度を高めにこの二つを同時に実施できるようなシステムを考えるということです.感性評価構造モデル構築特別プロジェクトにおいて柿山浩一郎先生(札幌市立大学)が実施されたマウスの縦方向の動きで意識的な評価データ,脳波で無意識のデータを同時に取得する方法(1)などです.

もう一つは,評価したい心理に最適な表現方法を考え,曖昧な感性は曖昧なまま表現させてあげることで精度を高める方法(2)(3)を考えるということです.

ともすればいつも使っている分析方法が一番と思ったり,これにはこの方法だという固定観念が働いてしまいがちになります.常に新しい感性評価法を考えるということは大切なことです.詳細は,下記の2.「感性評価のためのデザイン」,3.「主観量の評価ツール」の論文に記してあるとおりです.