感性

人の感性の働きは非常に不明解なものです.新しいデザインイメージを作り出すデザイナーの感性もまた同様に説明しがたいものとして扱われてきました.なぜなら感性は非常に曖昧なもので,それを定量化することは難しいと考えられてきたからです.感性は,直感的で説明のつかないものであることから,感性情報処理は潜在的メンタル・プロセス(自分では気がつかない無意識的な心の働き)によって処理されると考えられています.
逆に顕在的メンタル・プロセス(自分で意識化して言葉にできる心の働き)によって意識的に処理されるものを知的情報処理と言います.この潜在的メンタル・プロセスによって処理されると考えられる感性の働きを明らかにすることができるなら,デザインする上で有効な手段となりうるはずです.下図は,視覚に限らず人の感覚器を通してインプットされた情報は,潜在的メンタルプロセスによる感性情報処理と顕在的メンタルプロセスによる知的情報処理の相互作用によってデザインという行為を生成しており,波線で示している潜在的メンタルプロセスに焦点をあてた研究が感性デザインの研究であることを示しています.ただし,感性デザインの研究は,感性評価だけに終わってはなりません.多くの研究は,感性評価だけで創造すること=デザインすること,ができていません.デザインすることも感性評価をすることも同じだけの比率をもって研究がなされたとき,感性デザインの意味があるのです.

感性デザインとは,“自分でさえ気づかないような心の働き”を,“デザインというフィルタをとおしてどう操作できるかを考え(=感性操作)”そして“具現化(=デザイン)すること”です.

デザインを知らない場合,分析方法・評価方法ばかりにとらわれてその先が見えない見せないことが多いものです.これは感性評価の研究であって感性デザインではありません.「分析・評価結果は分かった,ならばその結果をデザインとして見せてみよ」・・これに応えることができるのが,デザイン能力です. 分析評価能力とは異なる能力です.これを混同してはなりません.

日々の生活の中でデザインされたものを目にしない日はありません.デザインは生活の中では必要不可欠なものとなっています.では,デザインとはいったい何と定義すればよいでしょうか.小原は,「デザインは,科学と芸術という人間の中で逆らいあう宿命をデザインという概念のもとにコントロールするものである」とし,「デザインとは,人―モノ の行為をひとつの新しいシステムとして,人は人,モノはモノという別々の立場からではなく,総合的に取り上げようという,新しい人間の行為に他ならない」[1]としています.

情報機器など新しい技術による新しい製品が矢継ぎ早に出てくる現在,デザインの領域は広がり,認知学,心理学,電子情報工学,機械工学,社会工学,哲学思想など他分野の学問領域の研究を含め,より分かりやすい機器デザインとして,インタフェース・デザインの必要性が多く説かれました.人間に近い会話的なものからアイコンによる視覚的支援によるものなど機械とのインタラクティブな関係をつくることがデザインへの指標となっています.小原がセンスとサイエンスをデザインという概念のもとにコントロールする,と言うように,人と機械とのユーザ・インタフェース・デザインは,一方が人である限り感性を考えなければならないのです.

しかし,この感性とは何を指して感性というのでしょうか.さらに感性は何によって触発され,何を創造しえるのでしょう.「デザインにおける感性の働き」を明らかにすることはデザインをする上で非常に重要なのです.感性デザイン学として学術的に研究することの意味がそこにあるのです[「学問としての感性」を参照して下さい].

操作性に関わる分かりやすさは,アイコンに代表されるユーザのメンタル・モデルに帰依したオフィスメタファーの導入,あるいはMicrosoft社のOfficeシリーズ(ソフトウェア)で用いられていたOfficeアシスタントのように,言語入力を介してダイレクトに文字で答えてくれることによる疑問点の解消法,更にキャラクタを登場させることで言語入力という面倒さを軽減させる方法などによって支援されています.人と機器の関係を人と人の関係に近づけることで,親しみやすい・分かりやすい機器のデザインとなるわけです.

人と機器との関係のよりよい構築のためには,内部システム,フォルムの外観に関わらず,人が持つ感性が大きく関わっていることとその感性の働きを明らかにしていくことは不可欠です.なぜなら,人は論理的な手続だけを機器に求めているのではないからです.

人間の感覚器は,五感と呼ばれるように異なった感覚モダリティ(感覚情報処理の様式)を持っており,異なった感覚器官が同じような感じ方をするなど複雑な相互作用によって成り立っていると言われています.人の感覚器官を通して入ってきた情報は感性の働きによって人は何かを感じ,評価・判断するのです.ソニーのAIBOに関わるデザインでは動物の動きをデザインするモーションデザインの必要性がクローズアップされたことがあります.人の感性へ訴えかけることのできるモノをユーザが望み,その感性とはどういう感性なのかということが注目されたからです.しかし,今やもっと上のレベルで人の感性の働きをデザイン要素から考えるなければなりません.

分かりやすさにせよ,動きにせよ,それらはすべて人の感性へ働きかけ,ユーザはその感性によってデザインの良し悪しの評価・判断材料としています.つまり,言語的・説明的なものから直感的・感性的なものへと評価・判断材料は移り,ユーザの感性にマッチしたものがよりよいものとして受け入れられているのです.

しかし,これに応えることはそう難しいことではありません.難しいのは,ユーザが気づいていないところで感性をよりよい方向に導くデザイン要素・デザイン要素を考えることなのです.

それを組み込んだデザインが,人をより良い方向へと導くことができるのです.

[1]小原二郎 編:「デザイン計画の調査・実験」,鳳山社,pp.9-10,1980

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※ 本文・図は,「デザインにおける感性の働きに関する研究」岡崎 章(本サイト管理者)の博士論文(2002)の内容の一部であり,これに加筆・修正し,分かりやすく述べたものです(図を加工し引用記載無しで使用している人がいますが,博士論文用に作ったオリジナルのデザインです).

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